簡易課税制度選択届出書の効力はどこまで?【調整対象/高額特定】

「簡易課税制度選択届出書の効力はどこまで?」

「提出制限があるってほんと?」

 

 

 

 

上記のような疑問に、会計事務所歴5年のホスメモがお答えします。

 

簡易課税は論点が多くて大変ですよね…。

「簡易課税制度選択届出書の効力の範囲」も非常に重要で、これを押さえていないと、消費税の計算方法を間違えてしまいます。

 

もし後日、税務署から指摘をされると、消費税だけではなく、所得税で更正の請求、法人税で修正申告が必要となりますので注意してください。

 

消費税は経費になるので、ほかの税金にも影響を与えてしまうんです。

 

この記事を読めば、簡易課税or本則課税のどちらで計算すべきか、判断できるので確実な税務処理ができますよ。

 

ぜひ最後までお付き合いください。

 

✔この記事の内容

・簡易課税制度選択届出書の効力の範囲

・簡易課税制度選択届出書の提出制限(調整対象固定資産or高額特定資産)

・簡易課税制度選択届出書の提出がなったとみなされるケース

 

簡易課税制度選択届出書の効力の範囲はどこまで?

question

 

 

 

 

簡易課税制度選択届出書の効力の範囲をまとめました。

 

  1. 基準期間における課税売上高が5000万円を超えた
  2. 基準期間における課税売上高が1000万円未満
  3. 相続、合併、分割があったとき

 

上記に加えて、「調整対象固定資産」と「高額特定資産」をゲットしたときは「簡易課税制度選択届出書」の提出制限や提出がなったとみなされるケースもあります。こちらについては後半で解説しますね。

 

1、基準期間における課税売上高が5000万円を超えた

簡易課税を適用するには、「基準期間」における課税売上高が5,000万円以下ではないといけません。

 

その課税期間の前々年又は前々事業年度(以下「基準期間」という。)の課税売上高が5,000万円以下で、簡易課税制度の適用を受ける旨の届出書を事前に提出している事業者は、実際の課税仕入れ等の税額を計算することなく、課税売上高から仕入控除税額の計算を行うことができる簡易課税制度の適用を受けることができます。

国税庁:簡易課税制度

 

たとえば「簡易課税制度選択届出書」を2019年に提出しているシステムエンジニアがいるとしましょう。

 

で、2020年より簡易課税をうけれる状況にはなるのですが、効力が無効になるケースがあるので、「基準期間」における課税売上高を確認します。

 

「基準期間」は2年前の事業年度です。2年前の事業年度で課税売上高が、たとえば6,000万円であれば、5,000万円を超えているので、簡易課税は適用されません。

 

ここが、一つ目の簡易課税制度選択届出書の効力の範囲です。

 

2、基準期間における課税売上高が1,000万円未満になった

今度は逆に、基準期間における課税売上高が1,000万円未満になったとき。

 

このケースでは消費税の納税義務を免除できますので、簡易課税の効力もおよびません。

 

消費税では、その課税期間に係る基準期間における課税売上高が1,000万円以下の事業者は、納税の義務が免除されます(注1)。

国税庁:納税義務の免除

 

簡易課税は適用されませんが、効力は存続しますので注意してくださいね。

 

消費税の納税義務が免除される条件はさまざまです。詳しくは「消費税払う人の条件は?納税義務のフローチャートで確認しよう」をどうぞ。

 

3、相続、合併、分割があったとき

相続、合併、分割があったときは、新たに「簡易課税制度選択届出書」を提出しないといけません。

 

たとえば被相続人(亡くなった人)が簡易課税の届出書を提出していたとしても、相続人(相続を受けた人)は簡易課税の適用は受けないんですね。

 

まったくの別人格なので。

 

ただし、

 

①相続により事業を新に開始したときや

②すでに事業をしていて簡易課税も受けていたときは、

 

相続等を受けた日とおなじ課税期間中に「簡易課税制度選択届出書」を提出すれば、その課税期間から簡易課税を受けれます。

 

ちょっと特殊なケースでしたが、「簡易課税制度選択届出書」の効力は以上になります。

 

つづいては「簡易課税制度選択届出書」の提出制限と届出書の提出がなかったとみなされるケースについて考えていきましょう。

 

簡易課税制度選択届出書の提出制限があるの?

question

 

 

 

 

節税を規制させるために、簡易課税制度選択届出書の提出に制限があります。

 

いわゆる「3年縛り」のことで、「調整対象固定資産」と「高額特定資産」の両方で制限があるので注意しましょう。

 

なぜこのような制限があるのか、というと「二重控除」を防止するからです。

詳しく解説していきますね。

 

1、調整対象固定資産

「調整対象固定資産」を一言でいうと、100万円以上する「棚卸資産以外の固定資産(土地などの非課税資産を除く)」です。

 

で、調整対象固定資産を仕入れてから3年を経過しないと、簡易課税制度選択届出書は提出できないとされています。

 

課税事業者を選択することにより課税事業者となった日から2年を経過する日までの間に開始した各課税期間中又は法第12条 の2第1項に規定する新設法人若しくは法第12条の3第1項の特定新規設立法人が基準期間のない事業年度に含まれる各課税期 間中に調整対象固定資産の課税仕入れ等を行った場合は、その仕入れ等の属する課税期間の初日から年を経過する日の属する課 税期間の初日以後でなければこの届出書を提出することはできません(法37③一、二)。 また、これら各課税期間中にこの届出書を提出した後、同一の課税期間に調整対象固定資産の課税仕入れ等を行った場合には、 既に提出したこの届出書はその提出がなかったものとみなされます(法37④)。

国税庁:簡易課税制度選択届出書

 

たとえば3月決算の法人が令和3年3月期で、500万円の車両を購入したときは、令和3年3月期から令和5年3月期までの3年間は「簡易課税制度選択届出書」を提出できません。

 

なぜこのような制度があるかというと、決算の直前で、節税目的に高級車を買う人が多いからだと私は考えます。

 

たとえば令和3年3月に中古で高級車を500万円を買い、令和4年3月にその高級車を300万円で売ったとしましょう。

 

令和3年3月では課税仕入れが控除できるので、消費税の節税になりますよね。

でも令和4年3月には課税仕入れはナシです。

 

そこでもし令和4年3月期に簡易課税が適用できたら…。

「みなし仕入率」で「仕入税額控除」を計算できるので、300万円×60%=180万円が消費税の経費になります。

 

つまり、「2重控除」ができてしまうんですよ。

 

なので「2重控除」を防止するために、調整対象固定資産を仕入れたときは、3年間、簡易課税選択制度届出書が提出できません。

 

2、高額特定資産について

「高額特定資産」は1,000万円以上する「棚卸資産」と「調整対象固定資産」のこと。1,000万円以上する棚卸資産が加わりました。

 

で、高額特定資産を仕入れてから3年が経過しないと、簡易課税制度選択届出書は提出できません。これも「2重控除」防止のためですね。

 

ちなみに下記の引用でいう「法第12条の4第1項の規定」というのは、高額特定資産を取得したときに、消費税の納税義務が3年間免除されませんよ、という規定です。

 

課税事業者が、高額特定資産の仕入れ等を行ったことにより、法第12条の4第1項の規定の適用を受ける場合には、その仕入れ 等の日の属する課税期間の初日から年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければこの届出書を提出することはでき ません。また、高額特定資産が自己建設高額特定資産に該当する場合には、当該自己建設高額特定資産の建設等に要した仕入れ等 の対価の額(事業者免税点制度及び簡易課税制度の適用を受けない課税期間中において行った原材料費及び経費に係るものに限り、 消費税相当額を除きます。)の累計額が1,000万円以上となった日の属する課税期間の初日から、当該自己建設高額特定資産の建 設等が完了した日の属する課税期間の初日から年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければこの届出書を提出する ことはできません(法37③三)。 

国税庁:簡易課税制度選択届出書

 

「高額特定資産」が加わった理由は、不動産業者の節税を防止するためだと思われます。

 

一般的にはイメージしづらいですが、不動産仲介業者にとって、不動産の購入は仕入れに該当します。なので、売れ残れば棚卸資産として資産計上するんですね。

 

おなじように中古車販売業者なら、商品の車は棚卸資産です。

 

で問題とされたのが、調整対象固定資産では棚卸資産は含まれていなかったので、「棚卸資産で計上すれば、まだ2重控除が取れる」と考える事業者が多かったこと。

 

とくに不動産業者の消費税還付スキームは税理士が売りにしているので、横行してしまったわけです。

 

なので、高額な棚卸資産についても、簡易課税で2重控除ができないように、税制改正が行われました。

 

「高額特定資産」も取得してから3年間は、簡易課税が提出できないので覚えておきましょう。

 

さらにややこしいのが、簡易課税制度選択届出書を提出できたとしても、提出がなかったとみなされるケースがあります…。さいごにここを解説します。

 

簡易課税制度選択届出書の提出がなかったとみなされるケース

why

 

 

 

 

簡易課税制度選択届出書の提出がなかったとみなされるケースもあります。

 

おなじ課税期間中に

 

  1. 調整対象固定資産を買ったとき
  2. 高額特定資産を買ったとき

 

は、翌課税期間から簡易課税は適用できませんので注意してください。

 

(簡易課税制度選択届出書提出後に法第37条第3項各号に規定する場合に該当する場合の当該届出書の取扱い)

13-1-4の2 簡易課税制度選択届出書を提出した事業者が、当該届出書の提出日以後、その提出した日の属する課税期間中に調整対象固定資産の仕入れ等又は高額特定資産の仕入れ等を行ったことにより、法第37条第3項各号《調整対象固定資産又は高額特定資産の仕入れ等を行った場合の簡易課税制度選択届出書の提出制限》に規定する場合に該当することとなった場合には、同条第4項の規定により当該届出書の提出がなかったものとみなされることに留意する。(平22課消1-9により追加、平28課消1-57により改正)

国税庁:簡易課税制度による仕入れに係る消費税額の控除

※売却したときは無関係、あくまで仕入れたときだけです。

 

とはいえ、抜け道はあります。

おなじ課税期間中に、「簡易課税制度選択届出書」と「調整対象固定資産or高額特定資産の取得」が行われなければいいので、課税期間を短縮して、別の課税期間にしてしまえばいいです。

 

消費税では課税期間を3か月ごととかに分割できるので、これを利用すれば、同じ事業年度中でも、課税期間は分けれます。

 

課税期間は、個人事業者については1月1日から12月31日までの1年間であり、法人については事業年度とされています。
ただし、特例として、届出により課税期間を次のとおり3か月ごと又は1か月ごとに短縮することができます。

国税庁:課税期間

 

まとめ:簡易課税制度選択届出書の効力や提出制限に気をつけましょう

ほんとはもっと書こうをおもったのですが、長くなってしまうので、今回はここで以上です。

さいごにまとめておくと、簡易課税制度選択届出書の効力の範囲はこちらでした。

 

  1. 基準期間における課税売上高が5000万円を超えた
  2. 基準期間における課税売上高が1000万円未満
  3. 相続、合併、分割があったとき

 

そして簡易課税制度選択届出書には提出制限がありました。3年縛りです。

  1. 調整対象固定資産の取得から3年間
  2. 高額特定資産の取得から3年間

 

さらに、おなじ課税期間中に、簡易課税制度選択届出書の提出と調整対象固定資産と高額特定資産の取得があると、届出書の提出はなかったものとみなされます。

 

ここまで確認できたら、つぎはいつ届出書を提出すべきかを検討するといいと思います。

 

正直に申し上げて「税理士に任せればよくない?」という声が聞こえてきそうですね…。

でも経営者さんのなかには「税理士に任せていたのに裏切られた」という声もよく聞きます。

 

自分の身はじぶんで守るという意味でも、消費税の仕組みは知っていて損はないと思いますよ。

税金は誰もが一生払い続けますから。

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