「事業主貸が多いと変?」
「生活費はどのように処理するの?」
上記のような疑問に、会計事務所歴6年のホスメモがお答えします。
結論からいうと、事業主貸が多くても変ではありませんよ。
事業用の通帳口座を持っていないと、事業主貸が多くなりがち。
生活費は事業とは無関係ですので、事業主貸で処理されるケースが多いとはずですから。
また事業主貸と事業主借で混乱されてしまう方がいるので、実務で役立つテクニックも、記事の後半でお伝えしますね。
事業主貸が多いと変?
事業主貸が多くても変ではないです。
たとえば事業用と生活用の口座を分けていないと、事業主貸がかなり多いと思いますよ。
- 生活用クレジットカードの引き落とし
- 国民年金や住民税等の支払
- 生活用に現金の引き出し
どれも事業主貸で処理します。
なので事業主貸が多いからといって、「帳簿が変だ」とは思いません。
仕訳も書いておきますね。
日付 | 借方 | 借方金額 | 税区分 | / | 貸方 | 貸方金額 | 税区分 | 摘要 |
6/30 | 事業主貸 | 30,000 | 対象外 | 普通預金 | 30,000 | 対象外 | 住民税 |
法人の場合は事業主貸ではなく、短期借入金
「事業主貸が多いとおかしいのでは?」と感じる方は、法人の短期借入金と同じように考えてしまっているかもです。
法人の場合は、事業主貸ではなく短期借入金を使います。
そして短期借入金の残高が多いと税務調査で調べられやすいです…。
なぜかというと、社長が会社のお金を私的に使っているのではないかと疑惑を持たれるからです。
法人の経営者になるとわかりますが、感覚的には財布はほぼ同じ。
でも税法上は明確に分けておかないと、脱税と疑われます。
というのも、法人税は固定で15%ですが所得税は累進課税なので最終的には45%まで上がります。
くわえて住民税が10%かかるので、実質的には税金が55%も課税されてしまう。
だから会社と社長の間で変なお金の動きが生じやすいんです。とくに決算前とかは。
そのため税務調査では短期借入金が多いと内容をチェックされます。
会社のお金を社長に使わせてないよね、と確認するために。
参照:無申告の法人は3年後に税務調査に入られます【実例で解説】
このほかにも短期借入金の論点には、相続税で課税されてしまう話しもあります。
なので「短期借入金は多くないほうが良い」というのが一般的に広まっていますよ。
つづいてはもう少し実務的には話しをします。
事業主貸と事業主借の使い分けを悩む声をよく聞くのですが、実際は片方だけ使えば大丈夫です。
事業主貸と事業主借は使い分けなくていい話し
事業主貸と事業主借の違いで悩む方へ、使い分けはしなくて大丈夫です。
どちらか一つの勘定科目だけ使いましょう。
私が個人事業主さんの帳簿を作るときは、「事業主貸」だけを使います。
たとえば国民年金を現金で払ったときは下記のように仕訳作ります。
日付 | 借方 | 借方金額 | 税区分 | / | 貸方 | 貸方金額 | 税区分 | 摘要 |
8/31 | 事業主貸 | 16,000 | 対象外 | 現金 | 16,000 | 対象外 | 国民年金 |
そして児童手当が1万円振り込まれたときも「事業主貸」で処理する。
日付 | 借方 | 借方金額 | 税区分 | / | 貸方 | 貸方金額 | 税区分 | 摘要 |
9/15 | 普通預金 | 10,000 | 対象外 | 事業主貸 | 10,000 | 対象外 | 児童手当 |
そうすると「事業主貸」の補助元帳を見れば、事業には関係ないお金の出し入れが一目で管理できます。
日付 | 相手勘定科目 | 摘要 | 借方金額 | 貸方金額 | 残高 |
8/31 | 現金 | 国民年金 | 16,000 | 16,000 | |
9/15 | 普通預金 | 児童手当 | 10,000 | 6,000 |
現在は残高が6,000円でプラスですが、マイナスになってしまっても大丈夫です。
というのも、けっきょく決算仕訳でマイナスの残高を「事業主借」に振り返ればいいので。
もしくはそのまま赤字のままでもかまわないです。
事業主貸と事業主借はけっきょく、元入金に集約されますから。
事業主貸と事業主借は元入金に集約されます
個人事業主の帳簿には、「元入金」という勘定科目があります。
覚えなくていいですが、元入金の計算方法を見てみるとけっきょく事業主貸と事業主借の合計が元入金に集約されるのがわかりますよ。
- 翌期首の元入金=前期末の元入金+当座の損益(青色申告特別控除前)+事業主借-事業主貸
もっと具体的にいうと、翌期首では事業主貸と事業主借は残高をゼロにして、差額を元入金の残高に振り替えます。
つまりけっきょくは元入金に振替られるので、、、事業主貸と事業主借を区別しなくたっていいという訳です。最終的な結果は変わらないので。
ちなみに元入金は法人でいうところの「資本金」に相当します。
最後にこの違いをカンタンに説明しておきますね。
元入金と資本金の違い
表にまとめてみました。
元入金(個人事業主) | 資本金(法人) | |
当年損益の処理 | 当年損益は翌年に元入金に算入される。 | 当年損益は利益剰余金に振替られる。翌年に資本金に参入されない。 |
金額の変動 | 事業に投入した資金と事業で得た資金の合計で、毎年変動する。 | 金額は基本固定である。
増資、減資で変動することはある。 |
会計の仕組み | マイナス残高もありえる。
(決算時に事業主貸の方が事業主借より多ければ、 振替の結果差額の元入金が減る) |
1円以上。マイナスは存在しない。 |
一番よく言われる違いは「元入金の残高は毎年変動するけれど、資本金は固定」です。
たしかにそうだけど、これだけだと説明が不足しているのでちょっと深堀します。
元入金は個人が事業で使うためのお金なので、べつにいくら変動しようが利害関係者はいないのでいくらだっていいのです。
いっぽうで法人の場合は、会社の所有者は株主になります。
いわゆる「所有と経営の分離」です。
株主が資本金を出資して、会社を設立しますからね、経営は社長がします。
で、株主の利益を守るために、資本金は変動させてないわけです。
簿記の仕組みでは、資本金は増資や減資等をしないと資本金を動かすことはできません。
これによって株主の最低限の資本を保護しています。
資本金は固定ですが、「繰越利益剰余金」は毎年変動します。
これが毎年の利益額の繰り越しで、この金額を見れば会社がこれまで業績が良かったのか、否かが判断できます。
というわけで、個人はどのようにお金を使おうが個人の自由です。
だから資本金という概念はない。
一方で法人の所有者は資本金を投資した株主のものです。
なので株主保護の観点から資本金は固定を保ち、損益の繰越額は「繰越利益剰余金」で管理します。これによって、株主のお金は保護しつつ、会社の業績を判断できるというわけです。
ちょっと話しが逸れましたが、ここまで理解しておけば事業主貸についてはOKだと思います。
ホスメモでは帳簿や仕訳に関する記事も多く取り上げています。
初心者向け帳簿の作り方。
https://hostess-tax.com/bookkeeping-beginner/
ホスメモ流帳簿の付け方。
https://hostess-tax.com/bookkeeping-intermediate/
どちらも参考になると思います。
ぜひ読んでみてください。損はさせません。