「個人名義の車を法人の経費にしたい…」
「名義が法人でなくても法人の経費になるの?」
上記のような疑問にお答えします。
結論を先に言ってしまうと、個人名義の車でも法人の経費にすることは可能です。
ただし、その車を使用し、費用の負担をしているのが法人の場合に限ります。
そしてリスクもありますし、車両の管理をしっかりできないとダメです。
個人名義の車を法人の経費にする方法
個人名義の車を法人の経費にする方法は3つあります。
- 個人から法人へ車両を売却する
- 個人から法人へ車両の賃貸借契約を結ぶ
- 法人で車を使用することにかかわる合意書or使用貸借契約書を作成
③については上記に加えて「車両の管理表」を作れば、個人名義の車を法人で使用していると客観的に判断されると思います。
1、個人から法人へ車両を売却する
個人から法人へ車を売却することで名義変更をし、法人の経費に算入できます。
名義変更の手間はかかりますが、もっともリスクが低い方法ですね。
ただし一つだけ論点になるのは、売却価格が適正であるか、という点です。
ググって相場に近い価格で売却すればいいのですが、うちうち取引なので価格は低くしがちですよね。
ここはつっこまれやすいので適正な市場価格で取引をしましょう。
あと覚えておくと便利なのは、通勤用の車を売ったということであれば、個人の売却益に所得税はかからないことですね。
資産の譲渡による所得のうち、次の所得については課税されません。
- (1) 生活用動産の譲渡による所得
家具、じゅう器、通勤用の自動車、衣服などの生活に通常必要な動産の譲渡による所得です。
しかし、貴金属や宝石、書画、骨とうなどで、1個又は1組の価額が30万円を超えるものの譲渡による所得は課税されます。
ちなみに事業用の車を売った場合は、譲渡所得、事業所得もしくは雑所得で扱われてしまうので税金がかかります…
なので通勤用の個人の車を法人で使用するために売却すれば、①個人としては売却益に税金がかからない、②法人としては経費が作れるので有利ですw
2、個人から法人へ車両の賃貸借契約を結ぶ
車両の賃貸借契約を個人と法人間で結ぶのもアリです。
これなら名義変更はしなくてOKです。
この方法を採用すると、法人としては経費が増えますが、個人では収入が上がるので確定申告が必要になります。
たとえば個人から法人へ車両を毎月3万円で貸し出すとします。
メンテナンス費用は借り主の法人が負担。
つまり、法人は賃借料と車のメンテナンス料を負担します。
でも賃貸借なので車両を資産計上しません。
いっぽうで個人では、賃借収入が発生し、車両を資産計上できます。
主な経費は減価償却費と、自動車税ですかね。
自動車税は個人で負担した方がいいのかなと思います。オペレーティングリースでもリースの貸し手が償却資産税を申告してますので。
このように個人に賃料収入が計上されてしまうので、合計で20万円を超えると確定申告が必要になってしまいます。
ちなみに賃料収入は雑所得になるとおもいますので、減価償却費と自動車税くらいしか経費は算入できないですよ。
いっぽうで法人側では、課税で賃借料が計上できるので法人税と消費税の節税になりますね。
3、法人で車を使用することにかかわる合意書or使用貸借契約書を作成
個人名義の車を法人で使用し、経費とするのであれば、その旨を「合意書」もしくは「使用貸借契約書」にまとめましょう。
なぜ個人名義の車を法人で使用するに至ったのか、車を使用し、費用を負担するのはだれなのかをまとめればOKです。
もう少し詳しく書き足すのであれば、下記は記載しておきましょう。
- 車の詳細(ナンバーや車種等)
- 車の名義が個人のままである理由
- 車を使用するのは法人だけであること
- 車のメンテナンスや管理責任は法人が負うこと
- 車を使用することにより生じる収益や費用は法人が負うこと
たとえば名義が個人である理由については、「個人の名義でないと、ローンを組んで車を所有できなかった」と記載するといいと思いますよ。
実情は「自動車保険料の割引が法人より個人の方が多かったから」かもしれませんがww
車の名義が個人であるのは、止む負えない理由があったからのほうがベターですね。
また記事の後半でリスクについて解説しています。
車両の管理はキチンとしましょう
合意書に基づいて、個人名義の車を法人で使用するときは車両運行管理表を作った方が保守的だと考えます。
なぜかというと、ほんとうに法人の事業で車を使用しているのか税務署に立証すべきだからです。車両運行管理表を日頃から作成しておけば合意書の説得力が増されると思いませんか?
たとえば車を使用したときは、
- 日付
- 走行距離
- 移動区間
- 運転手の氏名
- 車を使用した目的
など記載しておくといいですよ。
この管理表があれば、どんな目的で車を使用していたのかが明らかになりますよね?
それに走行距離と移動区間、車を使用した目的も管理していれば、プライベートで車を使用していないことも立証できるので経費を否認されにくくなると思います。
「虚偽の記載でもバレない気が…」と思われる方もおられるかもですが、、、けっきょく判断するのは税務署の人間です。
税務署の方が「正当な記録だな」と思えるように、記録した痕跡があれば否認はされないはず。
もし仮に税務調査が始まってから、3年分の車両運行管理表を作成したら、どこかでボロが出て、悪質と判断されかねないですからねw
人間が判断することなので、白黒はっきりしませんが日頃からキチンと記録を残しておきましょう。
つづいては、合意書と車両管理表だけで、どうして個人名義の車を法人にできるのか、その根拠やリスクについて考えていきます。
なぜ賃貸借契約なしで個人名義の車を法人の経費にできるのか
なぜ賃貸借契約なしで個人名義の車を法人の経費にできるのか。
すこし長くなりますが、判例を用いながら解説します。
この論点で取り出されるのが「実質所得者課税の原則」です。
(実質所得者課税の原則)
第十一条 資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であつて、その収益を享受せず、その者以外の法人がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する法人に帰属するものとして、この法律の規定を適用する。
法人税法:実質所得者課税の原則
つまり、名義ではなくって、実質的に収益を受けている人に税金を課税するということ。
実際に判例があるのでご紹介しますね。
実質所得者課税の原則の判例
実質所得者課税の判例です。
請求人(眼科医院)の妻はコンタクトレンズ等の販売に係る事業の収益を事業所得として所得税の確定申告をしているが、その収益は請求人に帰属すると認定された事例
請求人は、眼科医がコンタクトレンズ等の売買に関する業務を行うことは医療法及び薬事法により規制されていることから、眼科医業と本件事業を分離し、本件事業の経営者及び申告者の名義をDとしたものであり、同法を遵守した結果であるから実質所得者課税の原則の適用はなく、本件収益はDに帰属する旨主張する。
しかしながら、所得税法第12条に規定する実質所得者課税の原則は、租税回避行為への対処を目的としてのみ設けられたものではなく、課税の公平、適正を期するため、その基礎となる所得の帰属について表見的な他の法律上の形式又は効果にかかわらず、実質的な経済効果に着目し、その効果を現実に享受する者を税法上の所得の帰属者として課税しようとするものであり、このことからすれば、他の法律上無効又は取り消し得べき行為であっても、その行為に伴って経済効果が発生している場合には、その効果を現実に享受する者について課税することは何ら妨げられないと解すべきであるから、本件事業について医療法及び薬事法の規制があるからといって、本件収益が請求人に帰属するとの判断に何ら影響を及ぼすものではない。
ニ 以上の結果、原処分庁がD名義で申告された本件事業に係る所得金額を請求人の事業所得の金額に加算したことは相当であり、また、その計算にも誤りはないから、更正処分は適法である。
請求人の主張をまとめると、
- 法律の規制により、眼科医院で医療行為とコンタクトレンズの販売はできない
- なのでコンタクトレンズの販売は妻の名義で運営した
- そして上記の所得は妻のものとして確定申告をした
こんな流れですね。
いっぽうで裁判所の判断をまとめると、
- 妻は単なる名義人であると判断
- 理由は、コンタクトレンズの装着や発注等は請求人が行ってた
- 実態として請求人がコンタクトレンズ販売事業を運営しているのと同じ
このように名義人がうんぬんではなくって、実質的には誰が事業を運営し、収益を享受していたかで判断されます。
実質所得者課税の原則に経費は含まれるの?
で、車の名義の話しにもどります。
「実質所得者課税の原則」に当てはめれば、車の名義人ではなくて、車を使用することでメリットを享受していた者に負担を強いるべきではないかと考えられますよね?
ただし、「実質所得者課税の原則」は収益にたいして定めた原則であり、経費を含めた考え方ではないのかなと思われます。
ここがリスクですね。
「実質所得者課税の原則は収益にたいして規定したものであって、経費を想定したものではない」と言われたらどうなるのか…。
このあたりは経営者さんがどこまでリスクを取るか、またキチンと車両を管理できるのかによって判断が変わってくると思います。
税理士によっても判断が変わるかもなので、どうしてもハッキリさせたい方は税理士ドットコムなどで複数の税理士に無料相談されたほうがいいですよw
まとめ:個人名義の車も法人の経費にできますよ
個人名義の車を法人の経費にする方法は3つありました。
- 個人から法人へ車両を売却する
- 個人から法人へ車両の賃貸借契約を結ぶ
- 法人で車を使用することにかかわる合意書or使用貸借契約書を作成
もっともシンプルなのは、個人から法人へ車両を売却してしまうことですね。
②と③では名義がちがうままになるので、ほんとうに法人の事業で車両を使用しているか立証するために、「車両管理表」を記録する手間が増えます。
税理士に相談するのはアリですが、最終的には経営者さんが決めなければいけません。
なので手間とリスクを踏まえたうえで判断しましょう。